2018年09月11日

その他

【とっておきの箱根案内】詩人・菅原 敏の箱根を舞台にした書き下ろし小説 「湯船に乗って」前編

My Hakone Time by 天悠

詩人・菅原 敏の箱根を舞台にした書き下ろし小説 「湯船に乗って」前編

舞台は2028年。

結婚して10年を迎えた二人が向かったのは

かつて一度訪れた、あの箱根の温泉だった。

少し未来の夫婦のかたちとは?

同じ一日で起きた出来事が、

夫からの視点で描かれた前編、

そして妻の視点で描かれる後編。

 

国内外での朗読公演や、昨年出版された

『かのひと 超訳世界恋愛詩集』でも話題を集める

異色の現代詩人・菅原 敏が描き出す、

せつない夫婦のラブスト―リー。

>>後編はこちらから<<

 

文・菅原 敏 /イラスト・江夏潤一

 

 

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バックミラーに過去を覗く

私たちは毎年秋に旅に出る。

国内の小さな旅のこともあれば、砂漠の真ん中、銀色の猿が吠える熱帯、

土着品種のワインが美味しい小国、陽の沈まない白夜の国で数週間を過ごしたこともあった。

帰りの飛行機や列車の中で、来年に行く場所の候補を出すようになっていて、今年は長崎県の壱岐、もしくはスリランカに行く予定だった。

 

妻も私も、見たことのない景色を見たいというタイプだったので同じ旅先に二度訪れたことは一度もない。

妻から10年前に訪れたあの温泉にまた行きたいと言われたとき、思わず「え?」と聞き返してしまった。

確かに素敵な宿だったが、私たち二人にとって、見知らぬ土地を訪れることが通例だったし、

すでに候補は決まっていたからなおのこと意外だった。 ・・・・(つづく)

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